#005 インボイス制度

はじめに

2023年10月1日から55万の反対意見を押し通し、試行されたインボイス制度。(正式名称:適格請求書等保存方式)
今回ブログで取り上げるにあたり、国税庁のサイトを覗いてきたが以下のように説明されている。

インボイス制度について
税率が複数あっても、事業者の方が消費税を正確に納めていただけるように、消費税の金額等を書いた請求書・領収書等(インボイス)を基に計算する仕組みです。

引用 インボイス制度について❘国税庁 https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/zeimokubetsu/shohi/keigenzeiritsu/invoice_about.htm#invoice-system

このように説明されているが、インボイス制度の導入ギリギリまで国からの説明は全くと言っていいほどなく、導入寸前になって多くのメディアニュースやテレビの特集で解説に走ったが、その際に不自然な程メディアやSNSでの解説で使われていた論調が「免税事業者は消費者から受け取った消費税を納税せずに不当にポッケに入れている。」といういわゆる益税論だ。
だが、#004 消費税の真実で解説したように、消費税は消費者が支払っているものではない。
この制度の導入にも何か別の意図があるのではないか?

本記事では、インボイス制度とは何か?また、導入すると誰にどういう影響が及ぼされるのか解説する。

結論

先に結論を述べると

インボイス制度の本質とは
① 課税事業者への単なる増税
② 発注者、受注者(免税事業者)、消費者間での税金の押し付け

なのである。

ではなぜそう言い切れるのか?以下で解説する。

インボイス制度の概要

簡単に説明すると、消費税納税義務のある事業者(以下、課税事業者)が仕入れ税額控除(消費税額を計算する際、売上から仕入れを差し引くこと)を受ける際は、取引先がT番号をもった適格請求書(インボイス)発行事業者でなければならない。
言い換えると、取引先がT番号を持っていなければ、仕入れ税額控除を受けることができない。
消費税納税義務のない年収1,000万以下の事業者(以下、免税事業者)は、免税事業者であり続けることも可能だが、T番号を得るためには適格請求書発行事業者にならなければならないが、そのためには課税事業者にならなければならず、消費税納税義務が発生する。

国は2023年10月1日からインボイス制度を施工するにあたり経過措置をとっており、現段階で取引先が免税事業者でも、仕入れ額の8割は控除可能としている。2026年には10月1日からは控除できる割合は5割となり、2029年10月1日からは完全に控除ができなくなる。

売上1,100円、仕入れ550円の課税事業者の消費税納税額の計算例を以下に示す。

取引先が課税事業者の場合

1,100(売上) x 10/110 – 550(仕入れ) x 10/110 = 50

消費税納税額は50円となる。


取引先が免税事業者の場合(仕入れ税額控除できない)

1,100(売上) x 10/110 – 0 (仕入れ) = 100

消費税納税額は100円となる。倍じゃん。。。

これが原因で、免税事業者は課税事業者の納税額の上昇が理由に契約を切られる。もしくは不当な値下げ圧力を受ける可能性があることは安易に予想できる。

それに対して国は、免税事業者であることを理由に免税事業者との契約を切ったり、不当な値下げを要求すれば独占禁止法、下請法に抵触する可能性があると警告しているが、安い別の業者がいる。経営をスリム化させるなど、別の理由を探そうと思えばいくらでも探せるため、国の通告が何の意味をもたないのは明確である

免税事業者が使用する事業者免税点制度とは

中小零細企業の納税事務負担への配慮から設けられている特例措置であったが、幾度の見直しにより、その本来の意義は徐々に希薄化し、インボイス制度の導入によってさらにその形骸化が進んだ。

当時の政府は消費税という制度から中小企業を守る意思があったのか、それともインボイス制度の導入を見据えた布石だったのか。。。今考えれば、個人的には後者だと思うが。。。

以下、事業者免税制度の見直しの歴史である。

【平成9年税率引上げ時(平成6年12月)】

資本金1,000万円以上の新設法人は不適用(設立後2年間に限る)

【平成15年度改正】

適用上限を課税売上高3,000万円から1,000万円へ引き下げ

【平成23年度改正】

特定期間(前年又は前事業年度上半期)の課税売上高が1,000万円を超える事業者は不適用
   ※ 課税売上高に代えて支払給与の額で判定可

【社会保障・税一体改革(平成24年8月)】

資本金1,000万円未満の新設法人のうち、課税売上高5億円超の事業者等がグループで50%超出資して設立された法人は不適用(設立2年間に限る)

【令和6年度改正】

国外事業者については、①特定期間の支払給与の額による判定は不可、②資本金判定を日本での事業開始時の資本金により行う

資本金1,000万円未満の新設法人のうち、全世界の収入金額が50億円超の事業者等が設立した法人は不適用(設立後2年間に限る)

引用 事業者免税点制度の概要 ❘ 財務省 https://www.mof.go.jp/tax_policy/summary/consumption/d06.htm

そもそも益税論などない

インボイス制度導入の理由の一つとして、メディアが大々的にアピールしていた税の公平性(= 益税論)に関してだが、そもそも益税論など存在しない。

#004 消費税の真実でも説明したように、消費者はそもそも消費税を支払っていない。そのため「免税事業者は消費者から払われた消費税を懐に納めている」というのは、全くの見当違いであり、税の公平性という国の説明も何の合理性もない

低すぎる税収効果と費用対効果

見出し通りだが、この何の筋も通らない制度で国が試算したインボイス制度導入による消費税収増加額は、たったの年間2,480億円なのである
もう一度言うが、たったの2,480億である。

参考までに、政府が2024年度にガソリン補助金として投じられた予算は累計8兆1719億円。2024年度の国の税収は112兆5,717億円だ。
いかにこの愚策で得られる税収額が、全体の割合から考えると小さいものであるかわかるだろう。

また、この制度で最も厄介なのが事務作業の煩雑さである。
ある記事ではインボイスを導入することによる事務作業の作業コスト(人件費)は年間4兆956億円という試算が出ている

2,480億円支払う(しかもただ単に納税額を算出するだけなので、売り上げには全く寄与しない)ためだけに4兆956億円のコストが発生するというのである。費用対効果って言葉知ってる。。。?
当時の記事なので、今は便利な会計ソフトなどが登場し、幾分かはマシになっていると信じたいが。。。

また、導入して実際は1兆程の税収効果があるなどの記事を見たが、見当違いも甚だしい。

実際の金額など関係ない。

納税面でも、事務負担面でも企業を痛めつけ、益税論だと分断を煽り、55万の反対署名があるにもかかわらず、見込み2,480億円の税金欲しさにこの制度を押し通した政府の曲がった性根に怒りブチギレなのである。

過去最高の反対署名

上記で触れているが、インボイス制度の導入に至って、個人事業主・フリーランス、税理士が集まって「STOP!インボイス」という活動を展開しており、インボイス制度導入前2023年10月には55万もの反対署名を集めて国に提出された。この数はこれまで最多だった2021年の東京五輪・パラリンピックの開催中止を求める署名の46万5481人を10近く上回る。

まとめ

インボイス制度の本質は課税事業者への大企業への増税であり、増税分を課税事業者、免税事業者、最終消費者で押し付けあわせる制度である。
導入するに至り、国の説明は全くもって不十分、制度自体も難解であり、税の3原則「公平、中立、簡素」の一つ「簡素」から完全に外れていると私は考える。
完全に理解している人などいるのだろうか??
経過措置が終わりを迎えて、課税事業者となった中小零細、フリーランスが軒並み倒産してしまう前に、一人でも多くが消費税並びにインボイス制度の真実に気付き、日本全体を消費税の一律減税もしくは撤廃やむなし!という空気にしていく必要がある。
コーヒー飲んで考える考える考える。。。

最後に。。。食料品の減税とインボイス反対を訴える政党

インボイス制度の導入した理由の一つが複数税率の。。。となっている。そのためインボイス制度をなくすためには、複数税率の廃止や消費税自体の廃止などが真っ当な理由となりうるのだが、去った2025年夏の参院選の某政党の公約に「食料品の5%減税」と「インボイス制度の廃止」が並んでいたのだ。
食料品を5%にすると、消費税率が5, 8, 10とさらに複数化するため、それこそ政府が掲げたインボイス制度導入の必要性が不動となる。
要するに、このような政治家もインボイス制度が何なのかを理解していないのだ。。。

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